多民族国家インドネシアの民族について

インドネシアは細かく分けると約300の民族から構成されている多民族国家。外国人にとって、インドネシア人の見た目からはマレー系と中華系の区別しかできない場合がほとんどです。

そんなインドネシアは民族同士の争いがほとんどなく、多民族国家でありながら平和を維持している国の代表格です。

そんなインドネシアの民族について紹介します。

  • インドネシアの民族の基礎知識が知りたい
  • インドネシアの生活で民族文化について気を付けるべきことは?
  • インドネシアの各民族の特徴について知りたい

と様々な疑問を抱いている方がいると思います。

インドネシアの民族の基本的な知識から、人口の多くを占める民族の特徴について紹介しています。インドネシアの民族について興味のある方は是非参考にしてください。

多民族国家インドネシアの特徴

世界には多くの多民族国家がありますが、それぞれの国は以下のような特徴があります。
①アメリカやカナダ、オーストラリアなどの移民によって成り立っている移民国家。
②中国やロシアなど支配民族が周辺民族の居住地域を取り込んだ国家。
③シンガポールやマレーシアなど近隣地域からの移民がまとまって居住している国家。
④南アフリカなどの支配者と多数派の先住民族が併存している国家。
⑤古くから複数民族が共存し、支配的な民族のいない国家。

インドネシアは5番目の多民族国家にあたり、大小さまざまな民族が共存しています。インドネシアは「多様性の中の統一(Bhinneka Tunggal Ika)」のスローガンの下、各民族の独自な文化や伝統の継承を認め、どの民族も対等な立場で扱われるべきという多文化主義を採用しています。

一方、市民レベルではプリブミかそうでないかという意識が潜在的に存在します。プリブミとはインドネシア語で大地の子を意味し、主にマレー族系のインドネシア人のこと。

ジャワ人やスンダ人などのプリブミ(マレー族系の民族)が、良くも悪くも中華系を蚊帳の外にします。オランダ統治時代から続いているこの図式はインドネシアの民族を知るうえで重要なファクターの1つといえます。詳細は後述。

インドネシアの民族は、大別するとネグリト族系、ヴェドイド族系、マレー族系、メラネシア族系、パプア族系の5つに分けられます。

人口の0.1%にも満たないニューギニアなどに住んでいる先住民族もいるので、ジャカルタやバリなどのインドネシアでの生活で関わりがあるのは、中華系インドネシア人とマレー族系のインドネシア人のみ。

それでは早速インドネシアの民族について詳しく紹介していきます。

インドネシア最大で人口の4割を占めるジャワ人


インドネシアにいる民族の中で、国の人口に占める割合が最も高いのがジャワ人。元来、主にジャワ島の中部と東部に住んでいましたが、インドネシアの移住政策によりインドネシア全ての州に分布しています。

政府や軍で働く人も多く、初代大統領のスカルノや2代目大統領のスハルトもジャワ人です。

ジャワ人の文化

【言語】
現在ではインドネシア語のみの割合が高いと考えられますが、1990年の世論調査では9割弱のジャワ人がジャワ語を使用していました。現在もジャワ語話者は多く見かけます。

【宗教】
ジャワ人の多くはイスラム教徒ではあるものの、民族宗教であるケジャウェンも信仰として残っています。土着の宗教にイスラムやヒンドゥー、仏教の概念を柔軟に取り入れており、独自の新しい概念を生み出しています。

【文化】
ジャワの伝統文化としてバティックやウェトン、世界無形文化遺産にも登録されている影絵芝居のワヤン・クリが挙げられます。また、ジャワ人社会は比較的離婚が容易であるため、結婚経験のある独身女性は珍しくありません。

また、礼節を重んじたり文化の継承を重要視したりするのもジャワ人の特徴。ジャワ人の間では、次世代へ慣習を保持することを意味するNgri-ngri budaya Jawaという考え方の下、ケジャウェンや独特の芸術や文化が継承されています。

2番目に多い民族、スンダ人


インドネシアにおいて、人口の約15%を占めるスンダ人。マレー族系のスンダ人の多くはジャワ島西部で生活しているといわれています。インドネシア第3の都市バンドンに多くおり、美人な人が多いことでも知られています。

スンダ人の文化

【言語】
スンダ語は日本語と同じように敬語があります。スンダ語の中には最上級敬語と親や目上の人に使う敬語、友人同士で使う言葉、スラングの4つの言語体系がありますが、公用語であるインドネシア語とスンダ語が混ざった言葉を使っている人がほとんど。

現在では、その4つを上手く使いこなす人はかなり少なくなってきているようです。

【宗教】
現在ではイスラム教徒が多いものの、イスラム教が伝来するまではスンダ ウィウィタンという土着信仰が中心でした。自然や祖先の霊を崇拝する信仰で、スンダ人の考え方や行動規範にも影響をもたらしています。

その中のWiwaha yudha naradhaという原則は、伝統と両立しないものは拒絶しなければならないということを意味しており、イスラム教を信仰する人が多くても、スンダ ウィウィタンの要素は現代に生き残っているといわれています。

【文化】
アンクロン(アンクルン)やジャイポンガンはスンダの伝統文化。アンクロンはユネスコの無形文化遺産にも登録されており、オーケストラで演奏するには協力や調和が必要とされており、スンダ社会のアイデンティティとなっています。

ジャイポンガンはガムランで演奏する音楽に合わせて踊るクトゥッ ティル(Ketuk Tilu)などの伝統舞踊を取り入れた新作舞踊。セクシーな踊りは反対運動を経て、現在では西ジャワを訪れる来賓への歓迎セレモニーなどで披露されています。

戦闘民族!?マドゥラ人


ジャワ人、スンダ人に次いで人口が多いのがマドゥラ人。インドネシア全体の約3%を占めており、スラバヤの北にあるマドゥラ島に住んでいます。

アイデンティティが強い性格といわれており、オランダ植民地時代には軍に徴用され戦闘民族と位置付けられていたとの話も。

マドゥラ人の文化

【言語】
マドゥラ語は6つの方言があるとされており、東ジャワのマドゥラ人はジャワ語が混じった言葉を話す人もいます。さらに公用語のインドネシア語も話すので、マドゥラ人が住む場所によっては3つの言語が混在していることになります。

現在では3つの言葉を流暢に操る人は少ないと考えられますが、言語に多民族国家ならではの特徴が見受けられます。

【文化】
ジャワ人の影響を受けており、似た音楽やワヤンなどの文化を共有しています。最も特徴的な文化はKarapan Sapiといわれる雄牛が走るブルレース。レースではガムラン演奏や踊りが披露されます。

インドネシアにいるその他の民族

財界のキーパーソンが多い中華系

キリスト教徒や仏教徒の人が多くいる中華系インドネシア人はインドネシア全体の1%ほど。全体の人口としては少ないものの、インドネシア経済において重要な役割を担っているのが中華系インドネシア人。

サリムグループ、シナルマス、リッポーグループなど、インドネシアの財閥のほとんどは中華系インドネシア人がオーナーです。

インドネシアでは、プリブミ(大地の子という意味。主にマレー系を指す。)と中華系やインド系という図式が存在します。中華系とプリブミの確執はオランダ植民地時代までさかのぼります。

当時華人の地位がプリブミより高く、1740年にはバタビヤ華人虐殺事件が起こります。1958年には華語の使用や出版物の出版が禁止になり1994年まで続きます。その間にも国立大学への入学制限や公務員や軍人、医者などの職業制限があり、商人こそが唯一の職業選択肢でした。

現在ではプリブミとの混血や中国語を話せない中華系の若者も多くいる一方、経済界は相変わらず中華系が握っており、根深い確執があることは否めません。

サバサバ系民族、バタック人

人口の約3.5%を占めるバタック人。インドネシア人の中でも商売っ気があり、気性が荒くサバサバとした人が多いといわれているバタック人。

スマトラ島の北部の多く住み、昔は狩猟や農業で生計を立てていましたが、コーヒーやパーム油などの商業換金作物の栽培をするようになりました。

バタック人は教育熱心な人が多いといわれ、教師や弁護士、医師などの職業に就く人が多い傾向にあります。特に法律分野では有名な訴訟をバタック人弁護士が扱うなど、法曹界には欠かせない民族です。

保守派が多いアチェ人

アチェ人が9割を占めるアチェは保守的なイスラム教徒が多くいるといわれます。インドネシア国内でもアチェ州は唯一シャリーア(イスラム法)による自治権が認められているため、飲酒や賭博、売春などを行った場合はむち打ちの刑が執行されます。

1976年には独立運動も行われており、厳格なイスラム国家を目指している人が多くいます。

一方、2004年には地震・津波による甚大な被害を受けたアチェ。3月11日には東日本大震災の追悼式が行われ、日本語の歌が歌われることも。アチェに大学留学経験のある@mnattsunのツイッターではアチェに住んでいる人しか分からない実態が紹介されています。

2010年の国勢調査による民族人口


(STATISTICS INDONESIA:https://www.bps.go.id/)

今回紹介しきれなかった民族以外にも、インドネシアには多くの民族がいます。バリ人やブタウィ人など、人口割合では3%に満たない民族でも、人口では600万人を超えます。2010年のデータなため、人口が増えた現在はもっと増えていると考えられます。

多民族国家インドネシア。インドネシアを1つにまとめるのではなく、多種多様な民族やその文化について知れば面白い発見があるかもしれません。

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